エッセイ『病気とわたし』

北村早樹子

エッセイ『病気とわたし』

北村早樹子

 そういえば、改まってまじめに病気のことを書いたことはなかったなあと思いたち、ちょっと書いてみようと筆をとります。いや、筆といっても実際今叩いているのはパソコンのキイです。

 わたしは27歳のときに突然、色んな身体中の節々が痛くなって、整形外科をたらいまわしにされて調べてもらったのやけど、別に骨も異常なし、血液検査結果も異常なし、しまいにはなんかの呪いなんじゃないのとかゆわれて塩を振られたりもしました。わたしには本当に魔術を使える魔女の友人がいるので、その子が魔術でなんとかしようと、身体の上に謎の石を乗せたり念じたり何かしら魔術的パワーで治そうとしてくれたこともあったのですがわたしが根本的にそういうスピリチュアルな方面のことを信じていないこともあってか全く効かず、どんどん手も動かなくなっていくからピアノも弾けなくなるし、足も、例えば映画館で2時間座って見終わってさあ立ち上がろうと思ったら立ち上がれない、膝が激痛で立ち上がれない、みたいなこともありました。

 その辺ぐらいから、ライブを見に行ったりも殆どしなくなってしまいました。スタンディングで3、4時間とか無理だからです。とか言いながらも、そんな医療費を稼ぐために仕事をやめるわけにはいかないので、9時間立ちっぱなしのウエイトレスのアルバイトは現在進行形で続けております。が、握力がものすごく脆弱になってしまい、すぐにコップを落としたり割ったりして、自分でもショックを受けることが度々ありました。

 病名が発覚したのは、症状が出始めてから半年くらい経ってからで、近所の整形外科医に「もしかしたらこの病気かもしれないけど、この病気を専門で見れる先生はすごく少ないから」といって教えてもらったのが今通っている病院です。所謂膠原病の一種なのですが、膠原病ってものすごく色んな種類がありまして、わたしはなんと2種合併しているらしいのです。難病指定はされてはいるのですが、そこまでまだ患者数も多くはないからか、国から援助金のようなものは出ず、だから3割負担でもお薬代含めると毎月3、4万の医療費がかかってしまいます。

 一応わたしは個人事業主なので、毎年確定申告をするのですが、医療費の領収書を計算するとドン引きします。40万くらいかかっているからです。ちなみにこれはわたしの年間所得の約4分の1に値します。所得が低すぎることにも問題はあるのですが、この肉体で稼げるぎりぎりの金額なのでどうしようもありません。一時は立ち仕事に限界を感じ、事務的な仕事に変わろうかなあと思ったこともありますが、30目前で、なんの経験もない女をOLとして雇ってくれる会社なんてありません。ま、そもそもOLさんなんて出来る気もしません。そんなこんなで、ヨボヨボになりながらウエイトレスを続けるしかなく今に至ってます。

 「しかし、日本の医療体制よ、こんな状態の人もおるのやぞ、なんとか税金で助けてくれたりはしまいか!」と先生に聞いたこともありますが、先生には「あなた、一人で東京で自活していく気なの? 親御さんが元気なんだったら、実家に帰って療養するのが一番ですよ」とか言われてしまいました。まあ、確かに間違いではありません。その通りです。しかし! 世の中には諸事情で親には頼れない人間もおるのだということを知って欲しい!

 わたしは今や実家と完全にボツ交渉なのですが、当時はまだここまで亀裂は深くなかったので「難病とされている病気にかかりました」的な報告を母親にしたのですが、まあ、実家も実家で当時色々荒くれまくっていたこともあり「そんなことより、また〇〇がこんなこんなで、お母さん大変やねんよ」みたいな感じで軽くスルーされてしまいまして、そういえばそうやった、この人たちはわたしにそもそも興味関心がない人やった、ああ〜この人たちに現状を説明しても徒労に終わるだけやなあと思い、一応病名を伝えましたが、母親が覚えたかどうかは定かではありません。

 そんな状態なので実家に帰っても療養なんて出来るわけがないし、逆に精神的ストレスでわたしが発狂してしまうであろうことは目に見えていたので、簡単に諦めました。

 というか、この辺からわたしの変なプライドが目覚めて、「こんな人の世話になるのは御免被るぜ!」とか思ってしまい、「絶対自活してやるぜ!」スタンスになりました。

 身内には頼れない。だから自分で稼ぐしかない。だけど今更職場を変えるなんてゆっても、最初から病人であることを受け入れて雇ってくれる懐の深い会社なんてそうそうないでしょう。なので、今の職場にしがみつくしかなかったというのもあります。それに肉体的には結構大変ですが、やっぱり慣れ親しんだ環境の方が精神的には楽ちんなので、この選択で間違っていなかったと思います。

 高額医療費控除というシステムは一応あるので、毎年申請するのですが、これは、例えば入院手術とかで1か月に12万かかってしまったとかなら、7万円が返ってくるらしいです。要するに1か月5万円以上かかった医療費は、国が負担してくれるシステムなのです。しかし残念ながらわたしの場合、1か月5万にはぎり届きません。よって、高額として認めてもらえません。1年に一回、全医療費領収書をまとめて計算して提出すると、1万円くらいが返ってきますが、雀の涙とはこのことです。

 突然話が飛びますが、わたしが病気持ちだというと、よくメンタルの方だと誤解されがちです。まあ実際、今は超がつく不眠症ですけど、それくらいのもので意外とそちらは健康なつもりです。繊細だった思春期はまあなんというか、一連のそのへんのメンヘラーちゃんが患う病は一通りやりました。リストカッターでもありましたし、オーバードーズして胃洗浄まで行ったこともあります。あれはきつかった。鼻の穴に管を通してどくどく水を流し込まれ、そして口から吐かされるのです。プールで鼻から水飲んだら激痛の、最強バージョンと思っていただくとわかりやすいと思います。オーバードーズだけは二度とするまいと思いました。まあそれも全部、若気の至り、今となっては可愛い思い出です。

 だから今現在は、メンタルは健全なつもりです。たぶん。ですが、お国はメンヘラーの方にやさしいというか、申請すればメンタルは医療費が1割負担でよくなる制度があるのです。あら羨ましい。そして更に申請すると、生活保護まで受けられたりするのですって。そしてその生活保護の月収は、変な話わたしの月収よりも高かったりします。そして医療費は無料に、おまけに家賃補助とかもつくらしいです。そう考えると、日本は良い国ですね。

 わたしも、「生活保護の申請してみなよ」と時々言われます。が、それだけはなんだか、わたしの変なプライドが許さなくって絶対にするまいと思っています。不労収入というものを受け取って暮らしてそれが当たり前になってしまうと、自分の歌も文も全部の説得力が途端に薄らいでしまうんではないか、とか思うからです。

 おかげさまで、莫大な医療費はかかるものの、お薬を飲んで、高級なお注射(3割負担でも1本12000円もする)を打っていると、日常生活は送れるまでには回復し、ピアノもまた弾けるようになりました。なのでこうして、超低所得者でおまけに難病人ですが、細々とたのしく暮らしております。

 この持病自体は、自己免疫疾患といって、自分で自分の中の抗体を攻撃して弱っていくという、なんというか一人SMをやってるような状態の病気で、免疫力というのが極端にありません。なので神経質な人は人混みに出たりすることを避け、出る時もマスクで頑丈に防衛しながら暮らしていらっしゃったりします。だけど、わたしはこれもなんか変なプライドの一種なのかもしれませんが、マスク族が苦手で、確かに咳が止まらない人とかは病原菌をまき散らしているわけですからマスクしていただかないと困りますが、そうじゃないマスク族、「隠れるためにマスクしてるわけ?」みたいな「えっあなたゲーノー人だからお顔隠していらっしゃるわけ?」みたいな、これは中途半端なミュージシャン、バンドマン、役者志望者に多くみられるのですが、あれが苦手で、わたしはああはなりたくないので、基本ノーマスクでどこへでも行きます。

 これも職業関係なくよくある光景なのですが、はじめましての打ち合わせなどでマスクしたまま一度も外さない人、結構いらっしゃるのですが、これ、めっちゃ失礼と思いませんか? 顔も見せずに打ち合わせして、これからよろしくお願いしますをするのって、ちょっと変やんってわたしは思っています。とはいえ、その人たちは礼儀よりも自己防衛に励んでいらっしゃるわけですから、あら、そういうスタンスなのねって思うしかありません。

 だけど結果、自己防衛って大事なのかもしれません。相手に与える印象よりも自分の健康を守るって、本当はそっちの方が正しいのかもしれない。わたしみたいのは盾も持たずに裸一貫で戦場に出てきてるようなもんなのでしょう。そら負傷して当然。死んでないだけまし。でも、職業上人混みに出るのも当たり前だし、うわったぶん今この空間にすんごい病原菌おるやろな〜いややな〜とか思うときも多々ありますが、だいたい息を止めてるので、意外と感染しません。マスクって、そりゃまあ超頑丈な高級マスクなら別ですが、市販の使い捨てマスクみたいなのって、実はあんまり防御効果ないという噂も聞きます。

 そんなマスク族への対抗からか、なるべくマスクはせずに息止め療法(←そんなんほんまはない)で暮らしているわけですが、免疫が健康な人の何分の一かしかないはずなのにもかかわらず、意外と、1年に一回くらいしか体調を崩しません。まあ常に元気はないですが、インフルも罹ったことないし、ノロには数年前かかりましたがそれくらい、風邪もほぼひきません。が、一度引くと底辺まで落ちるというのか、どーーーーんとやられます。最初は風邪をどっかでもらってきたんかな、くらいなのですが、普通に健康体の人ならすぐ治るようなやつでも、わたしはヨボヨボになります。実は今が結構その状態です。

 先月ツアーに行っており、沖縄〜大阪〜広島〜大阪、10日間殆ど毎日ライブで、それはそれは楽しく充実した毎日やったのですが、実は真ん中あたりから喉をやられており、帰京して病院行こうにもゴールデンウイークでどこも閉まってて、お医者に診てもらうのが一週間遅れてしまって、それで更に重症化し、開けて喉の名医のもとに通い始めたのですが、声帯も気管支もぱんぱんに腫れてて、肺もやられてるかもしれない、そして膠原病は肺にも来る病気なので、そうなってくると僕は専門じゃないから診れない、とか言われてしまい、数日後にライブを控えてたのでなんとか頼みます〜とお祈りして点滴に2日通うと嘘みたいに元気になり、声も出るようになったのでよかった〜と思っていたんも束の間、またしても声が出なくなり、名医のもとへ駆け込むと、「前回のは荒療治だったから毎度毎度それではいけません、ちゃんと治しましょう」と言われて、わたしは点滴ぶっこんで欲しかったのですがぶっこんでいただけず、抗生剤や漢方でごまかされましたがなかなか回復の兆しが見られません。

 本来、元気な人が喉をやってしまった場合は、ステロイドをぶっこむとすぐさま声が出るようになるらしいのですが、わたしは持病の方で毎日すでに多量のステロイドを摂取してるので、これ以上は危険だから出せないといつも言われてしまいます。ステロイドって結構危ない薬らしく、人によっては飲みたくないと拒否する人もいるそうなのですが、わたしにとっては魔法のお薬。たぶんステロイド飲んでいなかったら全身激痛で寝たきりでしょう。ピアノも弾けないし歌も歌えない、こうやってパソコンのキイを叩くこともきつかった時代があるので、本当にステロイド様様です。まあ、見方を変えればヤク中です。

 話は戻りますが、知人に同じ病気の人がいると紹介され、何故かその人と、その病気のシンポジウムみたいなところに行かされたことがあるのですが、わたしにとっては地獄絵図でした。みんなわざわざこのシンポジウムのために病を抱えながら地方から上京してきたりしてて、そしてやってることは所謂不幸自慢。「自分はこんな症状でこんなに苦しんでいる」とか「〇〇病院でこんな治療をしたけど駄目だった」とか、そんなことを発表しあう謎の会合でした。そしてそのあと交流会のような時間があり、みんなでこのつらさを共有して支えあっていこう!的なノリで、連絡先やSNSを教えあったり、わたしは如何にしてもその輪から逃げるかをずっと考えていました。患者数が少ないし、完治は今のところ見込めない、だから数少ないみんなで繋がりあって支えよう、慰めあおう、君はひとりじゃない! 的なことなんですがそれって所謂傷の舐めあいやん、わたしのいちばん嫌なやつや、と思ってしまいました。

 もうだいぶ前だし、言った本人は覚えていらっしゃるか定かではないくらいの何気ない発言なのですが、ライブを見てくれた某漫画家のK泉T浩さんに「北村さん、もっとその病気を全面に出したら、売れるかもよ!難病の歌姫、みたいなさ。みんなそういうの好きじゃん。NHKとか取材に来るかもよ!」的なことを言われたことがあり、ちょっとおもろいな〜とも思いましたが、やはり、わたしは、病気をアイデンティティとして生きることがそもそも嫌なんだということに最近気が付きました。特定の誰かをディスるわけではないですが、そうやって病気をアイデンティティにして生きてしまっている方をときどき目にして、あれにだけはなりたくない……と心の底から思ってしまったからです。だからといって嘘もつけない性格なので、健康なふりも出来ず、このようにだらだらと病気について綴ってしまうのですが、基本、病人だとかは思わずにわたしの歌を聴いたり文を読んだりしていただけたらな〜と思っています。

(2017年5月/初出:北村早樹子メルマガ「そんなに不幸が嫌かよ!」)

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